HATCHiから歩いて3分くらいのところにある『柳宗理デザイン研究所』。
以前、金沢を訪れたときはゆっくり過ごすことができなかったので、今回はたっぷり見たいな、と楽しみにしていました。
彼と彼のプロダクトは、私がデザイナーを目指していた頃からのひそかなミューズ。
貧乏へなちょこデザイナー時代からずっと一緒に天童木工のバタフライスツールとは過ごしていて、Macとバタフライスツールだけ連れて引っ越したりもしていました。
そうそう、この夏の芦屋旧邸からの引っ越しでは、たくさんのものを処分して、その古いMacもついに動かなくなってしまっていて、とうとうお別れをしたのだけど、バタフライスツールは真っ先に梱包して新邸へ。
もう10年以上一緒に暮らしているのですが、きっとこれから先もまだまだいてくれるんだと思います。よろしくね、マイスツール。
そんな(一方的にですが)尊敬してやまない柳宗理さんは日本を代表するプロダクトデザイナーで、金沢美術工芸大学で長い間教鞭をとっていたことから、彼が亡くなった翌年の2012年、財団より大学へ7000点ほどのデザイン関係の資料が寄贈され、それをきっかけに大学附属施設としてこの研究所ができ、200点ほどがここにあるそうです。
中に入ってみると巨匠デザイナーの研究所というネーミングの堅苦しさはなく、彼が手がけてきたプロダクトたちが実際の暮らしに溶け込んでいるように、とてもシンプルに展示されています。
そう、彼が貫いたスタイルと同じように、この空間自体がとてもアノニマスな要素を持っているんです。
セラミックシリーズとこの黒柄カトラリーのコーディネートはとても好きで。何度も何度もナイフを持ってみたり、どんなお料理が合うのかなって考えてみたり。ちょっとした大人のままごと状態です。
このステンレスカトラリーシリーズのテーブルナイフも絶妙なフォルムと握りやすさなんです。
日常に使えるプロダクトを追求していた柳宗理のデザインは、時代をこえた使いやすさが素晴らしい。
ずらりとならんだこの柳宗理デザインのキッチンアイテムたち。
使いやすくてあきのこないシンプルなデザインで、実用的なものばかりです。
ステンレス鍋や鉄フライパン、キッチンナイフは私もほぼ毎日愛用していて、自分の家にあるものがこんな風に飾ってあると、身近なのにちょっとうれしくなります。
そしていろいろ手にした瞬間の持ちやすさに、欲しくなるもの続出!
穴あきステンレストングいいなあ。スタッキングできるステンレスボール&パンチングストレーナーも。
(ちなみにこの研究所は残念がながら物販はありません)
何度見ても、本質的で強烈なメッセージの「柳宗理のデザイン考」。
“デザインの創造とは、表面上のアピアランスの変化ではない。
創意工夫を持って内部機構を改革することである。
本当の美は生まれるもので、つくり出すものではない。
デザインの構想は、デザインする行為によって触発される。
デザインは一人でするものではない。
企業者は何よりもプロダクトマンシップを持っている人でなくてはならない。
よく売れるものは良いデザインであるとは必ずしも言えない。良いデザインは必ずしもよく売れるとは限らない。
良いデザインは優れたデザイナーのみでは生まれ得ない。
本当のデザインは流行と戦うことにある。
伝統は創造のためにある。伝統と創造を持たないデザインはあり得ない。
デザインは社会問題である。”
読む度に、自分がそのとき向かい合っていることとリンクするこの柳さんの言葉たち。
いつも、自分自身への問いをまっすぐに、ぐっと深くしてくれます。
この年表を見ていても、古さなんて全く感じさせない彼のプロダクトたち。
絵付けがあることだけで価値があるとされていた当時、柳宗理デザインの白い陶器はその良さが理解されず、未完成品だと酷評されてしまい、彼は激昂したというエピソードが語り継がれているティーポットも。
オリンピックのトーチホルダーのデザインまでされているんですね。
それまでの古典的なトーチホルダーの潮流にはとらわれず、ミニマルでシンプルな柳宗理のデザインは当時は斬新だったんじゃないのかなあ。
固定概念や資本主義にしばられることなく、その先を見つめ、どうすべきかをずっと自分に問い続け、行動していた柳さん。
この向かいにある展示室では、ショートムービーをみることができて、時系列で彼のプロダクトや思考にふれることができます。
私は一度プロダクトの展示を見たあと、ショートムービーを鑑賞し、ライブラリーコーナーに置いてある柳宗理関連の本や雑誌を読み漁って、もう一度戻ってプロダクトをじっくりと見に行きました。
すると最初に見たときとは違い、バックグラウンドにある彼の思いや世の中ごとに思いを巡らせながらひとつひとつにふれることができるんです。
フレッシュな情報がいろんな角度からインプットされて、少し考える時間が持てたからなのかな。
あっという間に時間が過ぎていて、気づけば二時間近く滞在していました…!ひゃー。
ずっとあっちの部屋とこっちの部屋を行ったり来たりして、いられる気もします。
それくらいたくさんの気づきをもらえるアノニマスでいてシンプルな空間なので、楽しいです。
少し訪れる時期がずれてしまったので残念なのですが、
2018年11月15日〜25日に、この場所から歩いてもいける21世紀美術館で、「柳宗理デザイン くらしとかたち展」があるそうです。
1000点近くを一挙に公開されるレアな特別展。あー…!行きたい。(……弾丸、行っちゃう?)
ちなみにこのデザイン研究所も、21世紀美術館も入場料は無料です。
金沢市民がうらやましいですよ、もうほーんと。
こんなに身近にいろんなアートやデザインに触れられるなんていいですね。
この金沢ジャーニー中に2回も訪れてしまった大好きでいて居心地のいい場所なのでした。
■柳宗理デザイン研究所
開所時間:午前9時30分から午後5時
休 館 日:毎週月曜(但し月曜が祝日のときは開所)
入 所 料:無料
所 在 地:〒920-0902 石川県金沢市尾張町2丁目12番1号