Everything is fleeting, but it’s beautiful.
すべてが儚くて、でも美しい。
ここは、そんなストーリーを感じる場所。
「楽しい」の反対側には、たくさんのドラマがあるように、
ただ知らないだけで、ものすごいスピードでぐるぐると変わっていってしまっていることがいっぱいあるんだと思います。
ここは、かつて炭鉱業で栄えた、北海道にある美唄の小さなまちにできた小学校でした。
1900年代初頭より戦争や日本の政策で栄え、全国有数の炭山地として活気のあった美唄のまちは、戦後も時代の変化に激しく揺り動かされ、数十年の間で、まちも暮らしも目まぐるしく変わり続けてきました。
1973年には最後の炭鉱の灯が消え、やがて人がいなくなり、ひっそりと静かな山へとなってしまったそうです。
それを象徴するかのように、この小学校も最盛期は1250人いた生徒はどんどん減っていき、最後はわずか67人で閉校式を迎えたそうです。たった35年の間に。
木造校舎の至るところに、学校として時を刻んだしるしがたくさん残されています。
この木の板にひとつひとつ書かれている行事は、きっと子供たちも大人たちもどれもわくわくして待ち遠しかったんだろうな、と思うものがずらりと並んでいます。
新しい給食室ができたときなんて、うれしくてちょっと得意気にもなって、子供たちは自慢するように大人に話してたんだろうなあ。
そんなことを思いながら順番に眺めていると、
時間が経つごとに、ところどころにクラスや子供の数が減ってきている一文が挟まり、一番最後の左の行には、思わず胸をきゅっと締め付ける「閉校式」の文字が。
賑やかだった自分たちの学校がなくなってしまう、なんて。この前で立ち止まって、しばらくじっと考えてしまいます。
それでいて、ラベルが貼ってある壁をそっと指でなぞってみても、階段の手すりをぎゅっと握ってみても、少しずつ今に寄り添うように丁寧に手を入れをながらこの場所はまだまだ呼吸をしているように感じます。
時が止まっているようで、止まっていない。
そして、ゆっくりとここで過ごしているうちに
いつの間にかまるでこの学校に通っていたような、自分の中の懐かしい記憶を少しずつ拾い集めるような感覚にさせてくれます。不思議なくらいに、自然と。
「子どもたちが、心をひろげられる広場をつくろう」
そんな思いで、この場所に息を吹き込んだのが、美唄で生まれ、この小学校にも通っていた彫刻家の安田侃さん。
世界的に活躍する安田侃さんは、この美唄の自然と彫刻美術が相響する野外美術館「アルテピアッツァ美唄」として、この廃校となった小学校を彫刻公園として開くこととなったそう。
「その時間や土地の記憶を彫刻に吹き込み、たとえ離れている場所にいる人や訪れたことがない人にも思いを届け、感じてもらう」
安田侃さんが著書で語ってらっしゃったように、この広大なアルテピアッツァの広場や、校舎、体育館に展示された安田さんの彫刻は、訪れた人の内側にある素の部分にすっと入り込み、その人自身の心を深く見つめる時間を提供してくれます。
ひとつ、越えた、成熟したおとなの学校。
出会う人の笑顔がぜんぶ、あたたかくて、やさしくて、暗くなっても窓の外の景色を、バスの時間までずっと眺めていました。
きっともっと必要になる、世の中のカタチだと思います。
今年最後の旅で、これてよかった。
12月の北海道の夜は早くて、あっという間に訪れます。
バスを待つ間に眺めていた、ほんのり夕焼けの赤と混ざり合った暗闇と白い雪のコントラストが泣きそうになるくらいキレイでした。
■アルテピアッツァ美唄 安田侃彫刻美術館
〒072-0831 北海道美唄市落合町栄町
tel:0126-63-3137
入場料:無料
OPNE:水曜日-月曜日 9:00~17:00
交通アクセス:JR函館本線 特急で34分「美唄駅」下車→市民バス「アルテピアッツァ美唄」行き
*私は電車で、新千歳→札幌(快速)→美唄(特急)で向かいました。札幌基点でのアクセスはしやすかったです。
Official web
■彫刻家 安田侃
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